介風見聞錄

台北に暮らす「介(すけ)」のあることないこと。

【台湾鉄道】新型特急EMU3000型電車ビジネスクラス乗車記【騰雲座艙】

介風見聞録にお越しいただき、有り難うございます。介(すけ)です。

2021年12月、台湾鉄路管理局(台湾鉄道、台鉄)が新しい特急電車をデビューさせました。その名はEMU3000型電車。日立が製造し、EMU900型通勤電車と共に、次世代の台鉄を担う列車とされています。

今回、花蓮旅行の帰りに、この車両のビジネスクラスに乗車することができたので、実際のサービスや乗ってみた感想をお伝えしたいと思います。

【今後の優等列車のスタンダード】

台鉄の特急電車と言うと、近年はTEMU1000型「タロコ号」やTEMU2000型「プユマ号」などのような車体傾斜式車両が相次いで導入されていましたが、今回のEMU3000型は車体が「傾斜しない」車両。

と言うのも、タロコ号とプユマ号が北部と宜蘭や花蓮、台東などの東部との速達化を図るために導入されたのに対し、EMU3000型は全国を走るプッシュプル(PP)自強号や急行列車の莒光号、復興号などの優等列車に充当される車齢30年以上の車両を更新するために導入されたからです。

またタロコ号とプユマ号が一部の利用客からは車体傾斜式ゆえに「乗り心地が悪い」、「客室空間が狭い」などの不満の声が上がっていたことなども車体傾斜式車両にならなかった理由とされています。

また個人的な見解ですが、2018年にはプユマ号が脱線事故を起こした他、車体傾斜式車両が本領を発揮するカーブの多い宜蘭線の区間をショートカットするトンネル建設が決まり(元々は台鉄の増線とする計画が、のちに台湾高速鉄路の宜蘭延伸の一部に組み込まれる)、長期的に見て、あえて車体傾斜式車両を導入しなくても良い状況が整ったのではないかと考えられます。

12両編成。全席にコンセント、全車両にトイレが設置されているのが便利です

今後台鉄は列車種別を都市間輸送列車と各駅停車に相当する区間車の2種類に単純化する方針を固めており、前者をEMU3000型、後者をEMU900型が担う計画になっています。今後の台鉄の優等列車のスタンダードとされる理由はここにあります。

なお、EMU3000型の列車名称は「自強号」。従来型と区別するため「新自強号」と言われることもありますが、限定的です。「タロコ号」や「プユマ号」のような特別な愛称は持っていません。鉄道に明るくない方だと「騰雲号」という人もいますが、「騰雲」はあくまでもEMU3000型のビジネスクラスの愛称であって、列車の名称ではありません。

ちなみにこの「騰雲」というのは、清朝時代の1891年に台湾で初めて鉄道が開通した際、ドイツから導入された最初の機関車の名称「騰雲号」から名付けられています。

またビジネスクラス自体は台鉄でも以前から一部優等列車に設定があり、特段珍しいものではありません。ですが、EMU3000型ではそのサービスをさらにグレードアップ。飛行機のサービスを目指し、チャイナエアラインで研修を受けたという客室乗務員による軽食とドリンクの提供を開始しました。

【外も中もおしゃれで落ち着いたデザイン】

で、今回のEMU3000型は12両編成(タロコとプユマは8両固定編成)で客席数は538席(タロコとプユマは376席と372席)。うちビジネスクラス「騰雲座艙」は30席設定されています。

車体は白と黒が基調になっていて、車端部に赤(一部は水色)のアクセントがあるデザイン。かなり落ち着いた雰囲気です。

騰雲座艙は5両目

【ゆったりと座れる快適な座席】

普通席は2-2で座席が並んでいますが、ビジネスクラスは2-1。

実際に座ってみると、若干座面が硬い気がしましたが、今回の乗車でお尻が痛くなることはなく、非常に快適でした。とはいえ、正直にいうと、飛行機のビジネスクラスに比べれば、なんとなく見劣りする感じはします。プレミアムエコノミーといったところでしょうか。

飛行機の座席と比べると「プレミアムエコノミー」くらいの快適度か

足元は当然のごとく広々。これまで台鉄のクロスシート車両についていたフットレストが省略され、その分だけ足元に大きめの荷物を置いてもさらに余裕ができるようになりました。

リクライニングは、背もたれが後ろに倒れるだけでなく座面も前方に若干スライドするタイプのもの。台湾なので、シートを倒す際、後ろの人に声をかける必要はありません。座席間隔も広いので、思い切り倒してもあまり圧迫感を感じないのは嬉しい限り。

足元は広々。隣席との間にある肘置きも広く、二人で使用しても問題なし

乗り心地は、タロコ号やプユマ号と比較して、明らかに横揺れが少なく感じられました。車体傾斜式ではないから速度が遅いのではとも思いましたが、現行の台鉄の時刻表を見ると、台北ー花蓮間ではタロコ、プユマ、EMU3000型のいずれも2時間〜2時間30分程度で駆け抜けており、実際には大きな違いはありません。

かつて、車体が傾斜しない自強号は台北ー花蓮間を最速2時間30分で走破していたのに対し、タロコ、プユマは性能上、最速1時間50分で走ることができます。とは言え、現行ダイヤは列車ごとに停車駅がかなり違うので、タロコ、プユマといえども全て最速で走るということはないですし、EMU3000型も線形が良ければ時速130キロで走れるので、極端に鈍足ということにはならないようなダイヤが組まれているようです。

【騰雲座艙の目玉。フードとドリンクのサービス】

そして車内サービスですが、着席後しばらくすると、客室乗務員さんがカートを引いて座席までやってきてくれます。

フードメニューは日本人に人気の「微熱山丘」のパイナップルケーキとアップルケーキのセット、嘉義の菓子店「福義軒」のエッグロール、ベルギー「ロータス」のビスケット、騰雲座艙特別仕様の「台鉄弁当」、「ハーゲンダッツ」のカップアイスクリームから選べます。

フードメニュー。シートポケットに入っています

ただ、台鉄弁当とハーゲンダッツは前日午後5時までに予約しておく必要があり、今回は乗車直前の購入だったために僕は「微熱山丘」、友人は「ロータス」をチョイスしました。

ドリンクメニューは炭酸水、スタバの韓国輸入の缶入りコーヒー(ブラックまたはラテ)、ミネラルウォーターの4種類で、炭酸水とラテを選びました。全てコールドドリンクで、高鉄のようなホットコーヒーの選択肢はありません。

フードメニューは弁当かお菓子系から選べます。かなりボリュームに差があるので、その時に想定される満腹度に合わせて選べます。

客室乗務員さんのサービスでは、一人ひとりにかける時間は飛行機よりも長く、じっくり丁寧に商品の説明をしてくれました。

ちなみに、特別仕様の台鉄弁当こそ予約が必要ですが、通常の車内販売カートも巡回してくるので、時間帯によっては車内で台鉄弁当の他、おつまみや飲料の購入が可能です。日本では特急電車内での車内販売が縮小傾向にあるものの、台湾は高鉄を含めてサービス続行中です。

とても丁寧な客室乗務員さん

EMU3000型以外の自強号でも台鉄弁当の予約購入は可能です。客室乗務員さんが座席まで持ってきてくれますが、こちらの弁当は駅でも販売されているスタンダードなもの。特製弁当はEMU3000型でしか味わえないので、次回は是非とも味わってみたいです。

【欠点をあえて挙げるとすれば】

お腹が満たされ、ゆったりと体を座席に預けられ、快適な移動ができるEMU3000型ですが、あえて欠点を上げるとするならば、「寒い」ということ。

まぁ、これはEMU3000型だからということではなく、台鉄の長距離列車全体に言えることなのですが、冷房の冷気が容赦なく降り注いできます。せっかく客室乗務員さんがいるのだから、ビジネスクラスにはブランケットのサービスがあってもいいのではないかと思ったものの、洗浄のコストと手間を考えるといま流行のSDGsに反するとして難しいのでしょうね。

荷物棚の下部には読書灯

また、若干今更感があるのですが、今年3月には立法院(国会)の交通委員会で、ある立法委員(国会議員)が座席の座り心地が良くないという声が上がっていると指摘。台鉄局長は改善すると回答しましたが、今後どうなるのか注目されます。

EMU3000城際列車座椅好看不好坐 台鐵局長允微調 - 生活 - 自由時報電子報

ちなみに台北ー花蓮間の運賃は普通席で440元のところ、ビジネスクラスは796元。かなり大雑把に弁当が100元、スタバのコーヒーが100元だと計算しても、さらにプラス200元で快適な座席に座れるというのであれば、ビジネスクラスは非常にリーズナブルに快適な旅が楽しめる移動手段なのではないでしょうか。

飛行機や台湾高速鉄路のビジネスクラスよりも手軽に体験できるEMU3000型のビジネスクラス。台鉄を使った長距離移動をお考えの方は、ぜひ利用してみてください。

 

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