台北に暮らす非リア充の戯言

台北に割と長い間暮らす日本人。中国語はちょっと話せるレベル。香港に恋い焦がれ、広東語学習中。

実は深刻な問題となっている台湾のHIVとAIDSの話

f:id:KennethQi:20190330172738j:image

週に一度、台北の某繁華街にある非営利団体(NPO)のサービスセンターでボランティアスタッフとして働いています。

ボランティアを始めた時期は、2013年か14年ごろだと思うのですが、台湾で暮らして10年近くが経過したころ。理由は、なんとか大学院を卒業できて就職もできたのは、たくさんの台湾の人々の協力のおかげで、なにか恩返しがしたいと思ったから。知り合いの日本人大学教授がこの団体を紹介してくれて、顔を出すようになりました。実際にやってみると、非常にやりがいのある仕事で、なんだかんだで5年以上続けています。

具体的な内容は、男性同性愛者向けの無料HIV検査と任意で有料の梅毒検査のお手伝い(異性愛者についてはHIVも有料です。その理由については後述)。採血して試験紙に垂らし、反応を見るというもので、その場で陽性か陰性かの宣告もします。また、その他の性感染症やそれらの感染予防に関する指導や問い合わせ対応も随時行っています。日本では採血が医療行為に当たるということで、ど素人はやってはいけない行為なのですが、台湾では可能です(といってもグレーゾーンらしいのですが)。

【ボランティアを通じて表面には見えない社会問題が見えた】

で、ここからが本題なのですが、台湾はHIVの感染とAIDSの発症件数が、深刻な問題となっています。参考として、2018年に日本の厚生労働省エイズ動向委員会が発表した2017年のHIV新規感染者数は824人、AIDSの新規発症者数は同じく369人(いずれも日本国籍)です。それに対して台湾なのですが、衛生福利部の疾病管制署が2019年にまとめた資料によると、2018年に報告されたHIV新規感染者数は1993人、AIDSの新規発症者数は1091人(いずれも中華民国籍)。単純に数字だけを見ても台湾の深刻さは一目瞭然ですが、総人口では日本が1億3000万人で、台湾は2300万人ということを考えると、「マジやばい」ということがお分かりいただけるのではないでしょうか。

ただ、この数も氷山の一角だと言われています。なぜならば、HIV感染者とAIDS発症者の数のうち、男性同性愛者は全体の8割以上を占めており、潜在的にはもっと多くの感染者および発症者がいると思われているからです。もちろん台湾では、大きな病院や保健所などでHIV検査が受けられるのですが、マイノリティでかつ差別の対象となる同性愛者は、たとえ医療スタッフであっても、理解のない人に偏見の目でみられることが恐怖でしかありません。実際のところ、同性婚への法整備が検討され、一見先進的に見える台湾ですが、個人レベルで見ると、理解は進んでいないのが現状です。そのため、同性愛者が気兼ねなく検査を受けられる場所が必要となり、理解のある人々で構成された男性同性愛者向けの検査サービスセンターが活用されている実情があります。なので、僕のいる団体では異性愛者と女性同性愛者は完全有料になっているんです。

ちなみに女性同性愛者が除外されているのは、彼女たちのHIV感染率は全体のわずか2%なのと、性行為を通じて感染する確率がほぼないため。これは差別というわけではなく、限りある資源を、問題がより深刻である男性同性愛者向けに投入したいという運営上の理由です。

【台湾の性に関する矛盾】

ただ、友人らの話を総合すると、台湾の教育機関で性教育が十分に実施されていない実情が、この問題をより深くしているような気がします。2018年に統一地方選挙に合わせて行われた住民投票では、性の多様性に関するテーマを含む性教育の強化に関する項目に対して過半数の反対票が投じられたことからも分かるように、現実の社会では保守派が圧倒的多数を占め、臭いものには蓋をする状況が起きています。避妊であったり、性感染症の予防などについては、見て見ぬ振りされているようなのです。

その状況下で、台湾人が性行為の参考にしてしまうのが、ネット上に広まるアダルトなビデオ。具体的な行為の内容は触れませんが、ビデオ内で行われている感染リスクの高い過激な行為に対して抵抗がないという人が少なからずいるようです。

また、台湾人自身が比較的に楽観的で、危機意識の薄い人が少なくないのも頭の痛い問題です。以前、ある男性同性愛者カップルの検査をお手伝いしたのですが、普段の性行為でコンドームを使っているかと質問すると「交際3カ月目に一度検査をして陰性だったので使っていません。彼としか行為をしていないし、お互いを信頼しているし、そもそも愛しているので、問題はありません」と答えてきました。一般的なHIV検査は抗体の有無で感染を判断します。3カ月というのは、HIVに感染してから抗体ができるまでの期間で、仮に第三者との性交渉がない場合、3カ月目で陰性ならば、検査の時点でも陰性であるはずです。

しかしながら最終的な結果は、一人が梅毒の陽性。お互いを信頼していても、愛があっても、ほとばしる性欲のためには嘘がつけることを実感した瞬間でした。

 

勿論、HIVに感染したとしても、きちんと医療期間を受診していれば、免疫システムを破壊してしまうAIDSの発症を抑えられるばかりか、非感染者とほぼ変わらない生活を送ることができるので、悲観的になる必要はないのですが、それはきちんと対処したことの話。もしないがしろにしていると、命を奪われることには変わりはありません。

台湾ではLGBTに対する理解が広まっているのは事実ですし、同性婚についても楽観的ではあるのですが、ボランティアを通じて、この問題の存在を知ることができました。きちんとした性教育が実施されて、少しでも悲しむ人が減ればいいなと思いながら、きょうもボランティアを続けています。